公務員(警察官、教員、消防士等)の不倫がバレると処分はどうなる?
最近、不倫に対する意見は、一昔前よりもかなり厳しい論調になっています。
特に、国民に奉仕すべき存在であるとされる「公務員」に対しては、他よりも厳しい目が向けられることもあります。
今回は、公務員が不倫をした場合に懲戒処分などは行われるのか、その他の処分の可能性はあるのか、職場に不倫をバレないようにする方法はあるのか等についてご説明します。
目次
1.公務員の違法行為に対する対応
不倫行為、すなわち配偶者のある者が、配偶者以外の異性と性交渉を行うことは違法行為です。
公務員が違法行為を起こした場合、任免権者である国や地方公共団体が取り得る対応は次の4種類です。
処分 | 内容 | 条文(国) | 条文(地方) |
---|---|---|---|
失職 | 公務員が「欠格事由」に該当するに至った場合、当然に職員の身分を失うこと | 国公法76条、同38条1号 | 地公法28条4項、同16条 |
懲戒 | 非違行為のあった職員に対する制裁として行われる処分 | 国公法82条1項 | 地公法29条第1項 |
分限免職 | 行政運営上、当該職員を職につけておくことが不適切なために行われる、本人に対する非難や制裁の性格を有しない処分 | 国公法78条 | 地公法28条 |
休職 | 職員の身分を保持したまま、職員を職務に従事させない分限処分 | 国公法79条2号、80条2項、同4項 | 地公法28条2項2号 |
※「国公法」:国家公務員法、「地公法」:地方公務員法
2.公務員の不倫行為に対する対応
(1) 失職となる?
不倫行為は、民事上、①裁判離婚の原因となり、②公序良俗違反として、例えば、不倫行為を約束した契約の無効を招来し、③他方の配偶者に対する不法行為として、損害賠償請求権を発生させる原因となります。
しかし、不倫行為が「違法」行為であるというのは、上記の法的効果を生じることを意味するにとどまり、刑法その他の刑罰法規で禁止されているわけではありません。
国家公務員では、欠格となる事由は法定されており、犯罪行為で禁錮以上の刑に処せられた者などが該当しますが、何ら犯罪ではない不倫行為は欠格事由ではありません(国家公務員法38条1号)。地方公務員も同じです(地方公務員法16条)。
したがって、不倫行為で失職となることはありません。
(2) 懲戒となる?
懲戒をできるのは、公務員の行為が懲戒事由に該当する場合です。
国家公務員法82条1項では、懲戒事由は次のとおり法定されています。
- 国家公務員法もしくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合
- 職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合
- 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
地方公務員法29条1項では、懲戒事由は次のとおり法定されています。
- この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
- 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
- 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
このように、国家公務員法も地方公務員法も、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」を懲戒事由としています。
そこで、不倫行為が、これに該当するか否かが問題です。
ところで、懲戒処分をするか否か及びその処分内容は任命権者の裁量に委ねられるので、懲戒権の行使が不統一となる危険があります。
そこで、国家公務員法では、人事院の通達で「懲戒処分の指針」が決められています(※人事院「懲戒処分の指針について」東京都「懲戒処分の指針」)。
この「指針」では、懲戒対象となる代表的な非違行為と、それに対する標準的な懲戒処分の内容が列挙されていますが、その中に不倫行為はありません。
性的な行為としては、セクシャルハラスメントについて、そのもっとも軽い態様として、「相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告」(同指針第2、1(14)ウ)と定めており、これと対比すれば、単なる不倫行為が懲戒事由とならないことは明らかでしょう。
地方公務員の場合も、例えば東京都では、東京都「懲戒処分の指針」を定めていますが、その中に不倫行為はあげられていませんし、セクシャルハラスメントに関して国家公務員の場合と同様の規定を置いていることからすると(同指針第5、1(18)ウ)、やはり不倫行為が懲戒事由とならないことは明らかと言えます。
したがって、国家公務員においても、地方公務員においても、不倫行為は懲戒事由ではありません。
(3) 分限免職となる?
国家公務員法78条(本人の意に反する降任及び免職)では、分限免職を含む、職員の意に反する降格、免職をできる場合について、次のとおり事由を法定しています。
- 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
- 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
- その他その官職に必要な適格性を欠く場合
- 制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
問題は、不倫行為が「官職に必要な適格性を欠く場合」に該当するか否かですが、この基準を具体化している人事院規則では、「適格性を欠くことが明らか」で、「勤務実績が不良なことが明らかなとき」でなくては降格も免職もできないとされています(人事院規則11-14(職員の身分保障)第7条4項、1項柱書)。
したがって、不倫に溺れて仕事がおろそかになっている場合は格別、単に不倫行為をしているというだけで、意に反して分限免職となったり、降格させられたりすることはありません。
(4) 休職となる?
休職とできる事由は、国家公務員法と人事院規則に定められていますが、いずれも、単なる不倫行為は含まれていません(国家公務員法79条、人事院規則11-14(職員の身分保障)第3条)。
地方公務員の場合も同様です(地方公務員法28条2項、例として東京都「職員の休職の事由等に関する規則」第2条)。
したがって、国家公務員も、地方公務員も、不倫行為で休職となることはありません。
3.警察官の場合
警察官は、階級が警視正以上場合は一般職の国家公務員であり、それ以外の職員は地方公務員です(警察法56条1項、2項)。
ただし、警察職員の人事は、警察庁長官の所管事項です(警察法21条13号)。
そこで、警察庁長官官房から、通達として「懲戒処分の指針」(※警察庁丙人発第96号・令和2年6月1日)が出されています。
その「第2、2 私生活上の行為」には、「公務の信用を失墜するような不相応な借財、不適切な異性交際等の不健全な生活態度をとること」があげられ、「戒告」相当とされています。
この「不適切な異性交際」に、不倫行為が含まれるか否かは判然としません。
報道(※時事ドットコムニュース・2021(令和2)年2月4日「警察の懲戒、昨年229件 異性関係が最多―警察庁」)によると、2019(令和元)年に懲戒処分を受けた警察官・警察職員229人のうち、処分理由は「異性関係」が91人でトップであったということですが、これには盗撮、セクハラ、強制わいせつなど含まれているとのことなので、単なる不倫行為で懲戒を受けたケースがあるのか不明です。
いかに厳格な規律を重視する警察組織といえども、実際に勤務への支障が生じていない以上、不倫行為を懲戒処分とすることは法的には無効な処分と言わざるを得ません。
警察としても、本人が不服を申し立てる姿勢を示している限り、後に法的に無効とされるリスクを覚悟してまで、不倫行為を懲戒処分とすることはないと思われます。
ただ、不倫行為で懲戒を受けた場合に、これを不服として争いつつ、警察官として勤務を継続することは警察という組織の特殊性を考えると事実上ほぼ無理ですから、処分を受ける側が抵抗する事例がほとんどないことは容易に想像がつきます。
つまり現実には、不倫行為でも、唯々諾々と懲戒処分を受け入れている場合が多いでしょう。
このように、不倫行為で警察官を懲戒することが法的に有効とは言えないとしても、これを争うことは現実的ではない以上、やはり警察官の方は身を慎むことをお勧めします。
また、不倫行為でも、警察官同士の不倫行為の場合は、女性警察官が増えている今日では、職場の他の女性警察官の動揺を誘い、規律に影響を与えるものとして、懲戒処分の対象とされる危険性は高いと言えます。
4.消防士の場合
消防署の職員の懲戒などについては地方公務員法の適用があります。
消防組織法第16条 消防職員に関する任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法の定めるところによる。
したがって、前述の地方公務員について説明したのと同様に、不倫行為で懲戒処分を受けることはありません。
5.教員の場合
教員は国家公務員の場合も、地方公務員の場合もあります。大多数を占める地方公務員について見てみましょう。
例えば、東京都では、東京都教育委員会が「懲戒処分の指針」に相応する「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を定めています。
その中には、不倫行為は懲戒対象とはされていません。
ただ、教職の特殊性から、次の定めがあります。
- 「児童・生徒に対する性的行為等」の項目で「同意の有無を問わず、性行為を行った場合(未遂を含む。)」を免職とする
- 「保護者に対する性的行為等」の項目で、「同意の有無を問わず、性行為を行った場合(未遂を含む。)」を免職・停職・減給とする
したがって、不倫行為の相手が、児童・生徒、その保護者である場合は、それだけで懲戒処分を受けることになります。理由は考えるまでもないでしょう。
6.不倫行為による懲戒を避けるには
不倫行為で懲戒されることを回避するには、ともかくも不倫の事実が職場に発覚しないようにすることが最優先です。
ただし、不倫行為をやめただけでは、不倫相手から過去の事実が漏れてしまう場合があります。
これを防止するには、不倫相手との間で、互いに不倫行為をしていた事実を第三者に漏らさないことを約束し、これを合意書として書面に残しておくべきです。不倫の事実を漏らした場合に違約金を支払う義務が発生することを明記しておくこともお勧めです。
ただ、不倫の当事者同士が交渉をすると、感情的になり、かえって事実を口外されてしまったり、事実を暴露すると脅されてしまったりする危険があります。
そこで、弁護士を代理人として、不倫相手と交渉し、法的に有効な書面を作成してもらうことがお勧めです。もちろん、弁護士には守秘義務があるので、情報が漏れることはありません。
公務員で不倫をしてしまった方は、弁護士にご相談されるべきでしょう。