公正証書を作成するメリット
示談の内容がまとまったら示談書(和解書)を作成することになります。この示談書の内容について公正証書を作成しておく方がよいと言われていますが、どうしてでしょうか?
以下では、示談書を公正証書で作成するメリットやデメリット、公正証書作成の流れなどにつきご説明いたします。
目次
1 公正証書とは
そもそも「公正証書」とはどういったものでしょうか。
公正証書とは、公証役場というところで、「公証人」と呼ばれる法律の専門家が法令に従って作成する文書(公文書)です。
公証役場は、全国に約300か所あり、どこの公証役場でも利用することができます。公証人は、元裁判官や元検察官など、法律実務の経験が豊富な人の中から、法務大臣が任命しています。
2 示談書を公正証書にするメリット
不倫問題の示談にあたり公正証書を作成するメリットとしては、以下のようなものがあります。
①法的に間違いのない内容で作成できる
公正証書を作成する際には、まず当事者間でまとまった示談の内容を示談書の形にして、公証人にみてもらいます。その示談書を元に公証人が公正証書を作成するのですが、その際に公証人が内容をチェックし、法的に問題があればそれを指摘してくれますので、条項の削除や修正ができます。そのため、当事者だけで示談書を作成する場合に比べ、法的に間違った内容になる可能性が低くなります。
ただし、公証人は当事者のどちらの味方でもなく、あくまで中立の立場ですから、「こうした方が有利ですよ。」といったアドバイスまでしてもらえるわけではありません。
②証拠としての価値が高い
公正証書は、公証人が作成する公文書ですから、私文書に比べ偽造されるおそれが小さいと言えます。そのため、証拠としての価値が高くなります。
なお、当事者間で作成した示談書は、私文書です。
③原本を公証役場で保管してもらえる
公正証書を作成すると、債権者には正本(謄本の一種で、原本の作成権限者によって原本に基づいて作成され、原本と同一の効力を有する書面)が、債務者には謄本(原本の存在とその内容を証明するために、権限のある公務員が原本の内容をそのまま写して作成した書面)が交付され、各当事者はそれぞれ保管することになりますが、原本は公証役場で保管されます。
そのため、かりに正本や謄本を失くしてしまっても、再交付してもらうことが可能です。
④執行力をもっている
当事者間で示談書を作成し、示談書の内容のとおりに不倫慰謝料等の支払がなされれば問題ないのですが、場合によっては、約束が守られず、支払いがされないということもありえます。特に、不倫慰謝料の支払を分割払いにしたような場合、途中で支払いがされなくなってしまうということがあります。
そのような場合、強制的に払わせようと思っても、いきなり債務者の給与や財産を差し押さえるということはできません。まず、裁判を起こし、支払いを命じる内容の判決を取得したうえで、強制執行(債務者の給与や財産の差押え)を申し立てるというステップを踏まなければならないのです。
ですが、公正証書に強制執行認諾文言(強制執行認諾条項ということもあります。)を入れておけば、執行力をもたせることができます。つまり、示談後にもし不倫慰謝料の支払いがされなかった場合に、裁判をして判決を取らなくても、すぐに債務者の財産の差押え等が可能となるのです。
このように執行力をもたせることができるというのが、示談書を公正証書で作成する最大のメリットといえます。
なお、すべての公正証書が執行力をもっているわけではなく、執行力をもつのは、強制執行認諾文言が入った公正証書だけです。強制執行認諾文言とは、たとえば「○○(債務者)は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した」というような一文です。
3 公正証書を作成するデメリット
公正証書の作成には上記のようなメリットがありますが、デメリットもないわけではありません。デメリットとしては、以下のようなものがあります。
①費用がかかる
公正証書の作成には、当然ですが作成費用がかかります。
公正証書の作成にかかる費用は「手数料」と言い、法律行為に係る証書作成の手数料は、原則として、その目的価額により定められています(公証人手数料令9条)。目的価額というのは、その行為によって得られる請求側の利益であり、相手方からみれば、その行為により負担する不利益ないし義務を金銭で評価したものです。そして、目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します(公証人手数料令10条)。具体的には、以下のように定められています。
【法律行為に係る証書作成の手数料】
法律行為の目的の価額 | 金額 |
---|---|
100万円以下のもの | 5000円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 7000円 |
200万円を超え500万円以下のもの | 1万1000円 |
500万円を超え1000万円以下のもの | 1万7000円 |
1000万円を超え3000万円以下のもの | 2万3000円 |
3000万円を超え5000万円以下のもの | 2万9000円 |
5000万円を超え1億円以下のもの | 4万3000円 |
1億円を超え3億円以下のもの | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下のもの | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超えるもの | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
②時間と手間がかかる
公正証書を作成するためには、作成のために必要な書類を事前に準備しなければなりません。
また、平日の日中に当事者(代理人でも可)が公証役場に出頭する必要があります。
4 まとめ
このように、公正証書の作成には、デメリットもありますので、すべてのケースで示談書が公正証書で作成されるわけではありません。
たとえば、当事者双方に代理人弁護士がついていて、不倫慰謝料の支払いが一括でなされる場合には、支払いはほぼ確実になされると言えますので、公正証書まで作成しないことが多いと言えます。
他方で、不倫慰謝料の支払いを分割払いとした場合には、公正証書の作成は必須といえるでしょう。
不倫問題の示談書を公正証書で作成するかどうかは、ケースバイケースということになります。