不倫慰謝料は誰に請求できるか
1 不貞相手に対する請求
最高裁判決昭和54年3月30日は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである」としています。
少しかみ砕いて説明すると、民法上、夫婦は相互に守操請求権(貞操を要求する権利)を有し、また、夫婦間の婚姻関係の平穏は保護されるべき法益と考えられており、第三者(不貞相手)がこれらを侵害する不貞行為は不法行為とされるということになります。
そして、こうした不貞行為は、他方配偶者と不貞相手の共同不法行為となります。したがって、被害者は他方配偶者のみならず、他方配偶者が不貞をした相手にも損害賠償請求をすることができます。
ただし、被害者が不貞相手と他方配偶者双方に対し、同額だけの慰謝料を請求できるかどうかは争いがあります。たとえば、配偶者(妻)との合意によって不貞行為を行った第三者に対し、夫から慰謝料請求をした事案において、東京高裁判決昭和60年11月20日は、「合意による貞操侵害の類型においては、自己の地位や相手方の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束したような場合でない限り、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべきである」としています。
その理由として、同裁判例は、「婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、この義務は配偶者以外の者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なるからである」ということを挙げています。
配偶者に対して貞操義務を負うのは一時的には他方配偶者であることからすると、上記裁判例には一定の説得力があるともいえます。
もっとも、上記の裁判例は、原告である夫が不貞をした妻を継続的に虐待していたという特殊な事案であり、どこまで一般化できるかは明らかではありません。
実際、下級審裁判例の判断は分かれており、不貞相手と他方配偶者が同額の賠償義務を負うとするものと、不貞相手の賠償額を少なく、他方配偶者の賠償額を多くするものの両方があります。
結論としては、事案の内容によっては、不貞相手への請求は他方配偶者への請求より賠償額が小さくなる可能性があるということをご理解ください。
2 配偶者に対する請求
民法上、配偶者は他方配偶者に対し互いに守操請求権を有し、この権利は保護されるべき権利利益とされます。そうすると、他方待遇者が不貞行為をした場合、保護法益を侵害して不法行為となります。
したがって、配偶者は、不貞をした他方配偶者に対し、不法行為として損害賠償請求をすることができます。
そして、配偶者は、不貞をした他方配偶者と、不貞相手の双方に対し損害賠償請求をすることができます。
ただし、当然のことながら、損害全体について二重取りをすることはできません。たとえば、被害者の損害全体が金銭評価して200万円とした場合、被害を受けた配偶者が加害者の片方から200万円の賠償を受ければ、もう片方の加害者への請求権は消滅します。