示談書にサインするタイミング

示談書にサインするタイミング

不倫慰謝料の請求を受け示談を行う場合には、示談書を作成するのが通常です。

この示談書は、不倫慰謝料の請求者やその代理人弁護士と、不貞相手とが、通常、何度か交渉を重ねた上で、請求者の方から用意され、不貞相手に対し署名押印を求められることが多いです。

不貞相手としては、示談書への押印を求められた場合には、すぐに押印して煩わしいことから逃れたいと言う方も多いかもしれませんが、よく確認せずに署名押印を行ってしまうと、後で相場からかけ離れていたことに気づき後悔するケースや、ポイントとなるべき条項が抜けていたことにより、請求者より、示談外の新たな不貞行為が発覚したとして、再度の示談金の支払いを求められるといったこともないとはいえません。

そこで、不倫慰謝料の示談書に署名押印する際の注意すべきポイントについて論じていきたいと思います。

1 慰謝料額は相場を踏まえたものになっているか?

不倫慰謝料の相場については決められた基準はないものの、これまでの裁判例を検討し、WEBサイトや書籍により、おおよその目安となる金額は広く知れ渡っています。

ケースにもよりますが、配偶者と不貞相手の不貞行為により、請求者が配偶者と離婚した場合には200万円~300万円程度、別居に至った場合は100万円~200万円程度、別居や離婚に至らず従前の生活を続けている場合には数十万円~100万円程度といわれています。

したがって、示談額が上記目安と大きく乖離するようであれば、増額や減額の余地があることになります。

2 違法となりうる約定条項はないか?

特に請求者に弁護士が付いていない場合には、示談書の条項に、一般の法令や公序良俗に反し無効と考えられる条項が挿入されている場合があるので注意が必要です。

いろいろな条項が考えられますので、無効と認められる可能性のある条項について、いくつか挙げてみたいと思います。

(1)違約金文言が挿入されている場合

違約金文言が定められている場合において、そのすべてが無効になるとはいえませんが、無効になる可能性があるといえるケースについて、挙げてみます。

示談の際には、請求者の配偶者との接触禁止や、不貞や和解の事実についての口外禁止の約束をさせられることが多いですが、この接触禁止や口外禁止の条項に違反した場合には、100万円ないし300万円程度の違約金を支払う等の不当に高額な違約金文言があるケースがあります。

これらの条項の有効性が裁判で争われた場合には、無効とされる可能性があります。

ちなみに、このような違約金文言については、公正証書にする場合には、公証人にもよりますが、違約金文言の削除を求められたり、当該文言には強制執行認諾は付与できないとされることがほとんどです。

ですので、このような条項が示談書に存在する場合には、弁護士に相談のうえ可能な限り削除する方向で交渉してもらうのが得策であるといえるでしょう。

(2)就業先の退職を求める文言が存在する場合

不貞相手が、請求者の配偶者と同じ職場で不貞関係に至った場合には、請求者より、勤務先を退職するよう求められ、かかる文言が示談書に記載されている場合があります。

このような文言についても、自ら進んで退職を承諾している場合を除いては、無効とされる可能性が高く、削除を求めるべきです。

(3)まとめ

その他にもいろいろなケースが考えられますが、不倫慰謝料請求の問題は、基本的には、請求者と不貞相手との間での損害賠償請求というお金の支払いを求める請求です。

よって、それ以外の当事者を巻き込むような示談条項がある場合や、お金の支払い以外の行為を求める請求は、無効の余地がありますので、そのような場合には、ぜひ、弁護士に相談されるのが得策であると思われます。

3 示談金の支払い方法は妥当か?

請求者より請求のあった示談額について、不貞相手において、一括払いが難しかったので、請求者に対し分割払いの申し入れを行い、これが認められたとします。

そして、その後、請求者より、分割払いを内容とする示談書が送付されてきた場合において注意すべき点がございますので、この点を説明させて頂きます。

どのような点かというと、示談をする際の実務においては、支払者が、分割払いを怠った場合の残額については、一括支払いの条項を設けることにより、一括払いとされるのが通常です。これは、裁判実務でも、ほとんどのケースで合意され規定されます。

法律上これを期限の利益喪失条項といいますが、この点について、裁判の実務では、2回怠った場合に初めて、一括支払いの請求が可能となるとされているのが通常です。

したがいまして、支払いを行う不貞相手の側としては、この点をよくチェックして、支払いを1度でも怠った場合には、残額の一括払いを請求できるとなっている場合には、このような条項は改善の余地があるといえることになります。

よって、このような条項が有る場合には弁護士に相談して、見直しの交渉を依頼するのが得策であると言えます。

4 高額な遅延損害金の特則条項がある場合

示談契約などの民事上の損害賠償債務の支払い合意については、延滞金の遅延損害金については、民事法定利率である年5分とされるのが通常です。

したがって、これと異なる遅延損害金が定められている場合には、改善の余地がありますので、請求者に対し、年5分に是正するように交渉するのが得策であると言えます。

5 口外禁止・接触禁止の条項について

これらの条項については、請求者と配偶者とが離婚や別居等することなく、これまで通りの婚姻生活を送る場合に、請求者より、不貞相手に対し、示談書に盛り込んで署名押印することを要求されるケースが多いといえます。

これらの文言については、同意することは問題ないですが、上述したように、不当な違約金の支払条項が付加されている場合には、弁護士に相談し、できる限り削除することを求めていくのが得策といえるでしょう。

また、接触禁止の条項に同意する場合でも、配偶者と不貞相手の職場が同一の場合や、不貞相手が請求者の配偶者に求償権を行使するために接触する必要がある場合など、正当な理由により接触する必要があるケースがあります。

よって、それらのケースの場合には、一定の場合には接触を可能とするような文言を定めておくことが必要です。これらの事項についても、専門家である弁護士に一度相談しておくとよいでしょう。

6 清算条項について

清算条項とは、和解書の最後あたりに規定されている文言で、通常、「甲及び乙とは、甲と乙との間には、本件に関し、本和解書に定めるものの他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」と規定されている条項のことです。

示談書を締結する際には、この清算条項を定めることは必要不可欠であるといえるでしょう。

なぜならば、この条項を定めることにより、請求者に、以後、本件不倫に関しての請求を許さないことが可能になるかです。

7 結語

以上、示談書にサインする際の最低限の確認事項について説明しました。

不倫慰謝料請求の示談のケースでは、請求者より、上記以外にも特別な条項の要求があるケースも多々あると思われます。

そのような要求の多くは、無効であったり、不要なものであったりするケースが多いですので、一度、弁護士に相談することをおすすめいたします。

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