不倫は犯罪ではない?不倫と法律の関係について
「不倫はしてはいけないこと」というのは、一般的な共通認識になっているでしょう。
しかし、倫理的な問題はあるとしても、法律的には不倫はどのように定められているのでしょうか。
この記事では、不倫は犯罪なのか、不倫に関して法律はどういう定めをしているのか、配偶者の不倫が発覚した場合に何ができるのか等について解説します。
目次
1.不倫は犯罪ではない
結論から言ってしまえば、不倫や浮気は犯罪ではありません。
犯罪の定義を簡単に言ってしまえば「刑罰が科される行為」のことです。例えば、窃盗や傷害などは刑法に懲役や罰金などの罰則があり、れっきとした犯罪です。
しかし、現在の日本に不倫に刑罰を科す法律はなく、民法に不倫についての規定が置かれているのみです。
なお、昔の日本には「姦通罪」という罪があり、夫のいる女性が不倫(性交渉)した場合、刑罰が科されていました。
しかし、日本国憲法に男女平等が定められ(憲法14条)、女性だけに刑罰が科されるのはこれに反するとして、刑法から姦通罪が削除され、廃止されました。
2.不倫と民法の規定
(1) 不倫と民法の不貞行為
不倫を規定しているのは、民法の「不貞行為」についての箇所です(民法770条1項1号)。
不貞行為は裁判上の離婚事由の1つとして規定されており、厳密に言えば、配偶者のいる人が自由意思で配偶者以外の人と性的関係を結ぶことを「不貞行為」といいます(最高裁昭和48年11月15日判決)。
この定義も判例によるもので、民法に不倫や浮気の基準が直接定められているわけではありませんが、法律的にはこの「不貞行為」が不倫に関する規定です。
(2)不貞行為と不法行為
この不貞行為は、離婚事由であるだけでなく、損害賠償請求の対象にもなるとされています。
犯罪ではないので刑罰はありませんが、損害賠償義務とそれによる経済的・社会的ダメージが、不倫をした人に対する制裁とも言えるでしょう。
民法上、次のような規定があります。
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この規定のように、他人の権利利益を侵害することを「不法行為」と言います。
この不法行為と犯罪の違いは、不法行為が当事者同士で損害賠償などを争うのに対して、犯罪は国家が刑罰を科す、という点にあります。
先ほどの不貞行為も、この「不法行為」に含まれるため、損害賠償請求ができるとするのが判例です。
不貞行為は平穏な婚姻関係を破壊するものとして、違法であるとされています。
最高裁昭和54年3月30日判決
夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、(中略)他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある
ここまでの解説をまとめると次のようになります。
- 不倫は刑罰のある「犯罪」ではない
- しかし、民法で定められた「不貞行為」に当たる場合がある
- 不貞行為であれば、「不法行為」として損害賠償請求できる場合がある
ただし、例えば不倫当時すでに別居しており修復できないほど婚姻関係が破綻していたなど、損害賠償が認められないケースがあることも覚えておきましょう(最判平成8年3月26日)。
3.不倫による不法行為で何を請求できる?
では、不倫をされて、それが不法行為になるとして、具体的にはどのような請求ができるのでしょうか。
ここでは、よく相談にあがるもの、特に金銭的な請求に絞って紹介します。
(1) 慰謝料
請求のメインとなるものはやはり慰謝料でしょう。
不法行為は精神的苦痛についても損害賠償請求できるとされています(民法710条)。
そのため、不倫による悲しみや苦痛についての損害賠償として慰謝料を請求できるのです。
一般的に、不倫慰謝料の相場は、50~300万円程度といわれていますが、精神的苦痛は、本来、金銭に換算できない性質のものですから、慰謝料額の算定についての絶対的な基準はありません。
そこで、裁判所が個別事情を考慮しながら判断した事例が蓄積され、考慮すべきポイントや大まかな相場が形成されています。
慰謝料額の考慮事情としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 不貞行為の期間や回数
- 婚姻期間
- 不貞行為前の夫婦関係
- 不貞行為に至った経緯
- 子供の有無、年齢
- 不貞相手の年齢、職業、収入等
- 反省、謝罪、不倫を止めたか等
どの事情を主張することが慰謝料を請求する上で有利になるかは、判断が非常に難しいです。
弁護士に依頼した上で、適切な請求をしてもらうことをおすすめします。
[参考記事]
不貞行為の慰謝料相場の判例を解説
(2) 調査費用
たとえば浮気相手・不倫相手との性的関係を突き止めるために探偵や興信所の調査会社を使った場合、これにかかった調査費用を請求することができるのでしょうか。
基本的には、不貞行為の証明に必要不可欠なものだったと言えるかどうかによって判断され、全額が認められることはあまり多くありません。
ここでは二つの裁判例をご紹介します。
【請求を認めた例】
東京地裁平成31年3月27日判決 東京地方裁判所平成30年(ワ)第224号「原告は,調査会社に支払った調査費用91万0620円についても本件の損害である旨主張する。
(中略)調査会社による調査の必要性自体は否定できないが,調査結果は立証方法の一つにすぎず,(中略)全ての調査が本件立証のために必要であったとは言い難いこと(中略)、その調査内容も,報告書の内容を見る限り,そこまでの高度な専門性が要求されるとは言い難いものであることからすれば,原告の請求のうち50万円の限度において,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」
【調査費用の請求を認めなかった例】
東京地裁令和元年6月18日判決 東京地方裁判所平成30年(ワ)第24362号「原告は,探偵社にc(不倫した配偶者)の行動調査を依頼し,調査料として30万円を支出したものであるが,原告が,当時既に被告(不倫相手)の氏名及び住所を把握しており,cが被告と再婚したい旨を明言していた状況であったことを踏まえると,本件において,被告に対して損害賠償を求めるために,探偵による行動調査の必要性があったと認めることは困難である。
したがって,調査料については,被告の不法行為と相当因果関係のある損害とは認められない。」
(3) 治療費等
悪質な不倫では、不倫された方が適応障害やうつ病になってしまうケースもあります。
こうしたケースでの治療費を損害賠償として請求できるかは事案によりますが、慰謝料の中に含めて考慮されることが多いです。
単に精神的苦痛を受けただけでなく、それによる出費としての立証が必要になりますので、ご自分の状況で治療費等を請求できる可能性があるかは弁護士にご相談ください。
(4) 弁護士費用
弁護士に対する質問として多いのが「弁護士費用全額を相手に請求することはできるのか?」ということです。
不倫による慰謝料などのように、不法行為に基づく損害賠償請求をするときは、一定の範囲内で弁護士費用を相手方に請求することができるとされています(最判昭和44年2月27日)。
不法行為は、一方的に予期せぬ損害を受けるわけですから、その損害賠償請求に相手が応じなかった場合の弁護士費用も、相手に加えられた損害の一種だと考えるわけです。
通常、請求が認められる弁護士費用は、現実に支払われた弁護士費用全額ではなく、原則として裁判所が認めた損害額の1割とされることが多いです。
例えば、不倫相手に慰謝料を請求し300万円が認められたとすれば、その1割である30万円が弁護士費用として認められる、というイメージです。
そのため、実際にかかった弁護士費用の全額を必ず回収できるわけではありません。
4.まとめ
不倫は犯罪ではないため、刑罰を科されるわけではありませんが、離婚事由でもある「不貞行為」として民法に規定されています。
不倫された側としては、慰謝料請求等によって不倫の当事者に対する「許せない」という気持ちを晴らすこともできますし、相手側もそれによって経済的・社会的制裁を受けます。
犯罪にはならなくても非常に大きな影響がある行為であることは間違いありません。
泉総合法律事務所では、不倫慰謝料問題で多くの実績を上げています。
不倫慰謝料問題でお悩みの場合は、ぜひご相談ください。